お前死んでも寺へはやらぬ
骨は産婦の栄養食品
古い俗踊に「お前死んでも寺へはやらぬ、焼いて粉にして酒で呑む」とは、栄養分に富むと云ふ問題でなく、女が男に捧げた愛情の極点であるが、近年骨を喰ふ人が出た。
古来総てに秘法と云ふものがあって、昔から日本に魚鳥又は骨髄は噛み砕いて喰ったもので、小鳥や鶏鴨などの骨は打ち砕いて団子のやうに丸めて煮たり、塩鮭生鮭の骨又は骨髄なども喰っている地方がある。
殺菌の力
元来生活体にはカルシウム類即ち石灰分摂取の必要なる事は、何人も異論のないことであるが、これを骨の儘で胃腸の中へ入れては諸種の障害が起こるから粉にして服用したならばよからうとドクトル秋雄雌郎氏が推奨した。即ち、四五年前仏蘭西のロパンと云ふ学者の著書「結核治療」を読んで結核患者、腺病質患者の諸臓器中には健康体の諸臓器中よりも非常に石灰分の減ってゐる事実を指摘し、骨食をすれば血液を濃厚にして白血球の黴菌を喰ひ殺す力を増進する事を発見した。その後、独逸のレイヴと云ふ学者のカルシウム入麺麭を発明して人体改良策を唱へたのを見て骨粉食を推奨するに至った。
貧血凍傷神経衰弱にも効がある
そこで骨粉食の効果について実験した所に依ると
(一)体質虚弱な者
(二)感冒に罹りやすい体質の者
(三)月経時に感冒に罹る殊異質の者
(四)凍傷の予防
(五)頭痛
(六)蕁麻疹
(七)貧血性疾患
(八)神経衰弱症
等に著しい効果のある事で、子供の感冒につひて骨粉を麺麭の中に入れて喰はしめようと百万苦心をした或る会社員の家庭などではその効果の著しい事を実験した。
勢力増進
又妊娠7箇月から十箇月迄の婦人には、普通卅グラムばかりの石灰分が其の胎児に必要なのである。
これは虚弱な婦人にとっては非常な負担であって、これがために往々肺病などに罹る人が少なくない。
これには骨粉食が胎児の為にも母体の維持にも必要な事であって、或る婦人の如きは、肺炎加答児(カタル)の為め人口流産の勧告さへ受けたが、骨粉食の為に強壮なる男児を挙げ、更に第二児を宿してゐる。
又一婦人の如きは五年前に三回も喀血し、左肺尖を侵されてゐながら、四年前に妊娠し昨年又一子を挙げた。
これは全く骨粉服用の結果で、体重が増加し、爾来日常の家事に鞅掌して頗る健康でゐるのであった。
函館新聞 大正七年二月十四日
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