天然痘盛返して深川に五名発生

千田町に四名 扇橋町に一名
 きのふ初めて判明


 先月来市民を脅かしてゐた天然痘も警視庁及び各署の努力によって、昨今新患者の発生も絶え、ほとんど終息の状態であったが、

意外にも当局者の安心を裏切って

八日深川から五名の真症患者が現はれ、その中の一名は死亡してゐることがわかった。
 患者は深川区千田町の一家四人および同区の××(二九)の五人である。

先月からの発病を
 医師にも診せずに放っておいた
  驚くべき一家
   系統は空気感染か


 警視庁で発病の経路を調べたところによると、○○方では去月十七日次男(七才)がまづ発病した。続いて二十七日三女(八才)、四女(二才)が次々に発病し、超えて同月妻(五〇)も発病し、母子四人が枕を並べて病床に臥してしまった。
 それを

医者にもかけず放任してゐたため

四女は七日に死亡してしまったので、近所の医師のところに死亡診断書をもらひにゆき、一通り容体を話した結果、同医師は天然痘の疑ひがあるので、かかり合ひになるのを恐れたものか、体よく死児を診断することを避け、直ちに警視庁に報告した。
 そこで衛生部の長塚医師が出張検診した結果、いずれも真症の天然痘と決定。
 また××は去る二日発病し、付近の医師の手当てを受けてゐるうち症状が現れたので、警視庁で検診中、これまた真症と決定したものである。
 発病の経緯は明らかでないが、空気感染の見込みで、五名のうち妻は全然種痘を施してをらず、その他はすでに発病後、種痘を受けたのでその効果がなかった。

伝染病法違反で
 主人を処罰
  付近一帯に強制種痘


 一家四人の患者を出した家では、主人と長男(一一)の二人が罹患しなかったのであるが、長男は昨年学校で種痘を受けたため感染を免れたことがわかり、種痘の必要を痛切に物語ってゐる。
 主人は医師から注意を受けたにもかかはらず、病人を放置して置いたかどにより、伝染病予防法第三条にふれ、処罰されることになり、目下扇橋署で取調べを受けてゐる。一方患家には直に大消毒を施し、患者は隔離して付近の住民には強制種痘を施す等大いに警戒中である。

東京朝日新聞 昭和三年四月九日

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