六代目が涙ながらに五門弟を破門す

芝居道にも時代思潮は浸透して
 内部から崩壊更新の時が来た


 因習の久しい芝居道にも遂に時代の思潮が浸透して、その内部から崩壊更新の時が来た。
 幸四郎の宗家堀越に対する態度もその一であった。
 今度また、尾上の宗家、菊五郎の一門に、その俊足五人組の先駆者が出て、つひに六代目はその門弟中、例の七曜座の一派 -尾上葵雀、同しげる、同菊太郎、同琴次郎、同菊蔵の五人をいよいよ破門することになった。
 この連中は先月十二日初日で片岡千代之助一座に加はり、大阪八千代座に出てゐたが、その間に結束して、虫明某に委任状を託し、師匠菊五郎に「大いに修行して自由の天地にのびたいから暇をくれ」と申し入れた。
 さうして十三日打ち揃って帰京した。
 「もってのほかだ」と激怒した菊五郎は「子供のころから倅同様に育ててきたのだけれど芝居道のために馬謖を斬る」と声明した。

弟子生活の悩み 五人組の主張


 
 なほ破門された五人組の主張は大体次のやうなものである。
芝居道といふものは人間を殺すものです。吾々はこの上いくら勉強しても一生涯、地位も収入も上がらないのです。このままで一生下積みになって死ぬるまで眼に見えてゐるその運命を、一日一日なしくづしに死んで行くのは堪へられません。師匠にしたって大勢のものをどうすることもできないのです。どうにもならないものを堪へて苦労する師匠と -いくら腕を磨いてもどうにも出世できない吾々と- このままでゐるよりは暇を貰って大いに働いて、全人格を活かして行きたいといふのが哀心の願ひです。それに、芝居道には師匠と吾々の間には、いろんな寄生虫がゐて「ビンを入れる」と申し、吾々の働いた正富の収入を食ってゐるものがあります。大阪で、この給金問題にからまる中間人間のために、圧迫されて死ねやうな目に逢ったのでつひに多年の決心を爆発させて、師匠の意見を聞いて貰ったのです。それをいろいろ仲介的人物のために誤解されたり、悪宣伝されたりして、師匠は勘違ひして怒ってしまったのです。師の大恩は知ってゐます。叩かれても殺されても怨みとは思ひません。しかしただ、無意味な生き方はしたくありません。

他人が入ったんでは勘弁ができない
 淋しい菊五郎の話


 
 五人の門弟を破門した菊五郎は「何も他人を介して弁などをいってこなくても、私はかれ等を自分の子として育てて来ました。ぢかに、かうかうだと腹を割ってくれればいい。他人が中に入ったんでは、もう勘弁ができない。世間体もある。断然処分します。番頭がビンを入れたなどといふが、あれはそんな人間ぢゃない。何かの間違ひだと思ひます。」と語った。
 

「時代の思潮 致し方がない」
 門弟の意見



 これは時代思潮で致し方もありません。
 番頭にも悪いところがあるかも知れませんが、あの五人組も早まったことをしてくれました。何とかわれわれで一時名前を預かっておいて、師匠の諒解を得たいとも思ってゐます。

大阪毎日新聞 昭和三年十二月六日


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