島田清治郎氏が監禁の罪で

葉山から拘引される
 某名家の令嬢を誘拐して


 昨秋洋行を終って帰朝した創作家の島田清治郎(二五)氏は、去八日相州逗子町桜山旅館養神亭に来て静養旁々創作に耽ったが、十日午後列車で帰京のため逗子駅発列車を待ち合わせた。
 折柄同駅は摂政殿下葉山から後帰京のため駅の内外は警官、憲兵の大警戒を加えてゐた際突如、横浜寿署刑事は同氏の姿を見るや否ウムをいわせず

自動車で葉山署に護送し


渡辺署長より厳重な取調べを受けたが、遂に十三日逗子駅発上り列車で横浜地方裁判所検事局に送られ、強盗強姦脅迫の罪名の下に検事廷で西村検事から厳重な取調べを受けて居るが、罪状明瞭なため収監さるる模様である。
 事件は某名家の令嬢を逗子の養神亭に連れ込んで脅迫監禁し、その所持金を奪ったのである。

色情狂の様な振舞
 文壇の誇大妄想狂


 島田氏が欧米巡遊の旅に出たのは昨年五月三日で先づ米国に向ったが、乗船の太洋丸では乗客の大使館附霧島氏夫人にキッスを強要して

事務長から譴責され


ロンドンでは島田氏の所謂花形女優ミス・マーガレット嬢に現を抜かした。
 帰京して府下代々木富ヶ谷に一戸を構へてゐた氏は金沢市生まれの今年廿五で、金沢中学を卒業し後東京明治学院に学び、英、仏、米その他欧州各国を巡遊し、昨秋帰朝した。
 その処女作長編小説「地上」は生田長江、堺枯川雨氏の激賞するところとなり文名上ったが、

人間としての氏には


生田、堺両氏も好意をもってゐない。
 氏には外に創作集「大望」、戯曲「王者」、感想集「早春」などがあり、帰朝後「我世に勝てり」を発表した文壇では誇大妄想狂の名がある。

女から現金を強奪
 一尺八寸余の短刀を所持す


 十三日正午から護送された天才島田清治郎は午後六時まで峻厳な取調べを受けた。
 当日島田は白っぽい夏インバに鼠色の中折帽を被り、駒下駄に大きい鞄をかかへて縁なし眼鏡から底力のある眼を覗かしてゐた。
 両人は前日来逗子の様神亭ホテルに弁護士と

詐称して宿泊してゐたが


その挙動に不審の点多く、葉山署の刑事が聞き訊すと、女は男のために現金十五円を強奪されたことを申立てたので、葉山署から横浜地方裁判所に護送されたので、検事局での島田は「両人は結婚するまでになってゐるので逗子の別荘に在る

徳富蘇峰氏に


お願ひして両人のために媒介の労をお願ひに来た」と申立てたとのことであるが、彼は一尺八寸余の白鞘短刀を所持してゐた。

女中に五十円をまく豪遊振り


 養神亭では語る
「島田さんは外国から帰朝されてから一度泊まったことがあり、次で去る八日午後二時頃来られた。そして

海を見晴らす奥座敷に旅装をとき


九日徳富蘇峰先生が訪問されたと聞きました。滞在中はよく散歩され、晩餐には女中を相手にビール二三本を上って、御機嫌は頗るよかった。それに勘定の時には女中に五十円といふ大金を下すった程でした。そんな大それた刑事問題なんては夢にも想ひませんネ」

島田氏釈放


 島田氏は横浜検事局で一応取調べの上、被害者側から告訴が無いので一時釈放され、昨夜帰京した。
画像
令嬢監禁で捕はれた島田清次郎氏

読売新聞 大正十二年四月十四日
次報へ続く

地上―地に潜むもの
季節社
島田 清次郎

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 地上―地に潜むもの の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


徳富蘇峰―日本ナショナリズムの軌跡 (中公新書)
中央公論新社
米原 謙

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 徳富蘇峰―日本ナショナリズムの軌跡 (中公新書) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


"島田清治郎氏が監禁の罪で" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント