四府県で殺人強盗 拳銃魔遂に就縛

三県協力千人人の水中捕物陣


 去月卅日午前十一時頃名古屋方面から来たトラックの影になり、自転車で疾走してきた廿三、四歳黒ジャンパーに茶色ズボンの青年を張込中の巡査が呼び止めると、素早く逃げ出したので共に張込んでいた巡査がトラックに飛び乗って追跡する一方、巡査は署に急報した。
 賊は木曽川堤防に沿って下ったが、追跡するトラックにたまらず畦道を逃げようとした際、自転車もろとも転落、その弾みにジャンパーに入れてあった生命の綱ピストルが逃げ出し、拾う暇もなくそのまま逃げ続け、畦道に置いてあった川村さんの研ぎ澄ました刃渡り一尺の鎌を取るや、悪鬼のごとく立ち向かって振り回し、巡査が怯む隙に賊は一散に走り続け、深行寺の門に鎌を棄て、そこに置いてあった諸戸さんの自転車を盗んで又々逃走、堤防伝いに姿を消した。
 急報により愛知、三重、静岡の三県警察部では付近一帯の郷軍、消防組員等約一千名を総動員して、賊を追込んだ三角州に張込ませ、水陸両方面から水も漏らさぬ大捜査陣を張り、遂に午後八時逮捕した。
 この怪漢こそ一月中旬から下旬にわたり、兵庫、大阪、愛知、静岡の各府県下において前後四回、凶悪なピストル殺人強盗を重ね、捜査当局では新聞掲載を禁止して捜査中の大阪府北河内郡枚方町神田芳一(二四)と判明し、名古屋拘置所に収容、記事掲載禁止を解除した。
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満州-東京間を戦慄の驀進
 三菱参事を射殺
  兇弾に人妻や夫婦も


 ピストル魔神田が満州でベルギー製の口径五、六五ミリ八連発ピストルを盗み、内地に潜入し血に彩られた前後十九日、千五百キロに及ぶ犯跡を次の如く自供した。
 満州から鉄路釜山に来て一月十二日関釜連絡船で下関に上陸。
 列車に乗り岡山で下車。自転車を盗み夜路を衝いて郷里大阪に向かう途中、旅費に窮し、兵庫県で休憩中巡り合わせた横井さんを見るや突如拳銃二発で即死せしめたが、人の気配で一物をも取り得ず自転車に飛び乗り、大阪に向かい、津田さん方に忍び入り、目を覚ました津田さんにピストルを突きつけて脅迫した所、却って意見された同人から十円紙幣一枚を借り受け、京阪国道を歩き郷里枚方町を通って、大津郡から列車で十八日名古屋駅に下車した。
 職を求めてふらふらするうち、豪壮な邸宅の前に差し掛かるや又も悪心を起こし、垣根を乗り越えて侵入、物音に目を覚ませた寺尾氏に拳銃を発射、一弾は右腕関節を貫き二弾は腹部に命中してその場に昏倒。
 銃声に驚き夫人や令嬢が起き出したので何物も得ず逃走。
 自転車を奪って東海道を岡崎市を通り過ぎた頃自転車がパンクしたので、徒歩で県境を越えて浜松市に進入、又も自転車を取って東へ向かい、静岡県島林方に忍び込み、店の饅頭十個ばかりを食い終えた途端に島林さんが飛び出したので、一発の下に打ち倒し、さらに一発撃ち放して即死させた。
 この音に妻が財布片手に「金なら上げるよ」と十円余在中の物を投げつけ、逃げ出そうとする背後から二発を浴びせて即死させ、自転車で更に東へ掛川駅に乗り付け、列車で二十五日夜厳重な捜査陣を突破して大胆にも東京駅に姿を現した。
 職を求めて市内を歩き回ったが、荷物もなければ身分証明書もないため何処へ行っても断られるので、捨て鉢気味で再び大阪に帰る目的でプラプラ沼津まで踏破。
 最後の金をはたいて入場券で急行に乗り、午前三時に名古屋駅に列車が滑り込むと同時に深夜を幸いに線路上に飛び降り、自転車を盗み名古屋市内の目抜き通りを突破して伊勢路に向かう途中、遂に姿を見破られたもので、捕らえられる時に落としたピストルには残る五発の弾が装填されていた。

悪鬼の形相
 捕らえられて舌を噛む


 犯人神田は桑名郡井曾島村から船を盗み、木曽川を渡って対岸木曽岬村に入ったが、追い詰められ堤防の葦の中にすくみ乍ら捜査の手の弛むのを待っていた。
 芦原の中で発見された犯人はやにわに葦の中から木曽川に飛び込んだ。
 捜査隊員が腹まで水に濡れながら追ったが及ばず、付近に繋いであった小舟を漕ぎ出し、泳いで逃げ行く賊を三町あまりも追跡し、沖合の中州で逮捕したのだった。
 犯人は逮捕の際自殺を企て舌を噛んだ為、殆ど正気を失い口からは生々しい鮮血を出し悪鬼迫る相貌を呈していた。
昭和十四年二月二日 東京朝日新聞


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